渋谷のちょっと怪しげな角にひっそりと佇む「ナドヤの勝手コーヒー」は、カフェというより“混沌としたスピリチュアル体験”をカフェっぽく包装した何かです。もしもマッドサイエンティストが雷に打たれたあとで映画『アメリ』を連続視聴しながらカフェを開いたら、たぶんこうなります。
「勝手」とは日本語で「自分勝手」とか「好き勝手」という意味ですが、このコーヒーはその哲学を全力で体現しています。メニューはありません。選ぶのはあなたじゃない。飲み物の方があなたを選びます。
「本日のブレンド:後悔とラベンダー」とチョークで書かれたボードがすべてを物語ります。しばらくすると、何も言わずに一杯のコーヒーが出てきます。店員はたぶん着物とクロックスの奇跡のコラボを着こなしながら、静かにうなずくだけ。あなたは飲む。泣く。悟る。
味はというと、トーストされた松ぼっくりとイチゴ畑と“存在することへの不安”が発酵してできたような感じ。深くて、感情的で、あなたが昨晩元カレに送ったLINEも全て見透かされています。店主は「豆のオーラを感じながら1粒ずつ焙煎している」と言い張りますが、それも納得です。このコーヒー、目を覚ますどころか異次元に連れて行かれます。
店内は完全に“夢の中の夢”な世界観。バラバラな家具、カセットテープの祭壇、たぶん呪われてるトースターなどがカオスに共存しています。テーブルの脚が勝手に動いてる気がするのは、きっと気のせいじゃありません。
BGMも秀逸。前回訪れたときはモンゴルの喉歌と2000年代J-POPの謎リミックス。なぜかめちゃくちゃ良かったです。気づけば3時間滞在、小説1本書き上げて、時間の概念が揺らいでました。
渋谷の中心から細い路地をいくつか曲がり、風鈴とジャズフルートの音を頼りに辿り着いたこの場所。「ナドヤの勝手コーヒー」は、一度来たら説明不能。だけど、野望とちょっとした危険の味がするエスプレッソを求めているなら、ここが聖地です。