原宿のとある壁の裏に、理屈が眠りにつき、ユーモアが支配する不思議な世界が広がっています。そこに住んでいるのは、クマ。いや、正確には、カフェインを摂取したクマの手です。ここはアナクマカフェ。東京で唯一、店員の顔が見えず、ラテを渡してくるのは謎のモフモフのクマの手というお店です。
すべてはごく普通に始まります。原宿を歩いていると、キラキラしたキノコのような格好をしたティーンエイジャーたちをかき分けながら、森をイメージした緑の壁と、穴の開いた木のパネルに出くわします。そばにはタブレット。無言であなたのカフェイン欲を観察しています。あなたはラテを注文します。あるいはフラッペか、抹茶アイスか、ついでに人生の迷いも追加。しばし待機。
すると、現れます。
壁からにょきっと出てくる、ふわふわのクマの手。別世界からやってきた靴下パペットのようです。しばらくあなたを見定めるように静止。平静を保とうとしますが、クマはすべてお見通し。クマは、知っているのです。そして、そっとあなたの手にドリンクを置いて、すっと穴の中に消えていきます。
顔も声もなし。ただ、手。それだけ。でも不思議なことに、2回目にはそれが普通に感じてきます。
ドリンク?実は本当に美味しいんです。アイスラテは甘すぎず、ミラノのバリスタ学校を卒業したのではと思うほどの精密な味わい。ドーナツも危険なほどにクセになります。抹茶味の砂糖まぶしをひと口食べれば、友達に「クマの穴で会おう」と即連絡している自分がいます。
でもアナクマは単なるカフェではありません。体験であり、人生のスタイルであり、モフモフの哲学です。「クマは誰?なぜコーヒーを?労働組合には入っているのか?」クマの手は何も語りませんが、感情は語ってきます。軽いジャッジ、喜び、疲労、そして朝のラッシュ時に千件の注文を受けた重圧さえも。
常連たちは、この手に「個性がある」と主張します。ある日はハイタッチ。ある日は手を振る。そしてある人は、カプチーノを渡された後、クマの手が指でバンバンしてきたと証言。真偽は不明。
アナクマカフェの真髄は、東京という街の本音を突いていること。「朝のカフェイン摂取前に人と会話したくない」その気持ちを、完璧に理解しています。手は何も求めず、静かにラテを差し出し、あなたに“モフモフに見守られる心地よさ”をくれるのです。
原宿に来たら、ぜひ。ドーナツの香りとささやき声、そしてどこかであなたを見つめているかもしれない、あの手を目印に。